2016年上半期読書ベスト(中篇)
10位 ジャック・デリダ『獣と主権者Ⅰ』
- 作者: ジャック・デリダ,西山雄二,郷原佳以,亀井大輔,佐藤朋子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2014/11/28
- メディア: 単行本
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最近『Ⅱ』が発売されましたが、これは講義録です。デリダが死ぬ前の、けっこう直前の(2~3年前)講義。デリダは著作がとにかくとにかくとにかく(苦笑)難しいので、この講義録はありがたい。しかし講義録でもけっこうむずかしいところはある(笑)
けど、すごく刺激的な講義です。これは面白い。獣、つまり動物などと、「主権者」、これは関係がある、ということ……幾つかの印象的なパッセージを執拗に繰り返しながら、この講義は魔法にかけられたかのようにどんどん進んでいきます。参照されるテクストはマキャヴェリ、ホッブズ、ルソー、ドゥルーズ、詩、小説など様々。後期デリダのテーマの一つは「動物(という存在をどう考えるか)」でした。そしてそれが主権論にもつながっているということで、とても野心的でかつそれが講義風だから著作ほどむずかしくない、というのがミソだと思います。
今年中には『Ⅱ』を買います・・・
9位 スベトラーナ・アレクシェービッチ『チェルノブイリの祈り』
- 作者: スベトラーナ・アレクシエービッチ,松本妙子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/06/16
- メディア: 文庫
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2015年のノーベル文学賞受賞者。ルポルタージュ、ノンフィクションという読み物を普段全く読まなかったから、そういう観点でも、翻訳があるのが嬉しいと思って買って読みました。これは3.11と福島原発事故のいまだ余韻に浸らざるを得ない私たち日本人にもすごく関係がある本だと思っています。スベトラーナは、人々の「声」を写し取ります。チェルノブイリ事故で無残な死を遂げた夫を回想する若き妻、地方に住み続けることをただただ選ぶ老婦人。子供たち。ルポルタージュのすさまじさが伝わってきました。こういう作品が、岩波現代文庫で残り、読み継がれていくことが何より大切なのかなと思っています。
8位 ル・クレジオ『隔離の島』
- 作者: ル・クレジオ,中地義和
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/12/18
- メディア: 単行本
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4月に読みました。三週間くらいはかかった。しんどい読書だったけど、とても濃密で、素敵な時間でした。主人公たちが感染症の伝播防止のためにある島に隔離されるのですが、植物学者の日記が挟まれていたりとか、あと主人公のフィアンセとなる少女は、その存在感が圧倒的でした。この二人の世界はすごい。そこにだけ圧倒的な希望が描かれている。主人公は家族と伝統と温かい場所を捨て、まったく別の人生に飛びこむ決意をした……この隔離された、隔絶された、一カ月と半月ほどの時間の中で。傑作だと思います。
7位 大江健三郎『個人的な体験』
- 作者: 大江健三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/03/14
- メディア: Kindle版
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これは割と最近というか、5月に読んだのかな。1週間もあったら読めました。冒頭のヤンキーとの闘いの場面が凄まじい。アメリカの映画を見ているようでした。カッコよすぎる。「バード」とか「火見子」とかのネーミングセンスもすごすぎる(笑) 妻がほとんど書かれてないことは、『万延元年』を読んだ時もそうでしたが、とても気になりました(気にしてくださいとしか言いようがないのだから)。 アルバイトの塾の教壇上でゲロをぶちまけるシーン(笑)
実際、子供を手放して、火見子とともに希望の新しい地・アフリカに何故行かなかったのか? これは疑問でもあります。大江はわざと書いていない。「なぜ子供を見放さなかったのか」ということを。おそらく、***の場面で省略された部分は、そこを書くにはどうしても事実的な感情が必要になり、しかしそれでは物語として陰りをみせるから、とかじゃないのかなぁ。
アフリカを夢見ることを捨て、障害児を選んだ主人公は、今後どうするんだろう、妻は、火見子は、と不安定な主人公だから気になりました笑
- 作者: フリードリヒ・W.ニーチェ,Friedrich Wilhelm Nietzsche,佐々木中
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/08/05
- メディア: 文庫
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ニーチェの最も代表的だろうと言われる主著をやっと読めました! 岩波文庫だと、二分冊になっているのですが、それはずっと昔から使っている書棚に積読されてありました。そこでこの佐々木さんの訳。最高だとしか言いようがありません。佐々木さんは間違いなく言葉の(才の)人だ、それは翻訳でも活かされるのだと思いました。正直、この作品の思想的なところはよく分からなくて、ストーリーを追っていました。天才で孤独のツァラトゥストラが、世間の人に近付いたり、失望したり、怒ったりを繰り返している(笑) その姿は、ニーチェの転身のようでもあるな、と思いました。「神は死んだ」というのは、おそらく、絶対的な権威、神や永遠や幸福への確証といったものが墜落した今、世界は平板な荒れ地のようになっている、みたいな感覚なのではないかと個人的には思っています。ポスト近代への予感ですね。 むしろ、近代そのものの揺れ動きだと思いますが、実際いま近代は揺れ動いています。だとしたら、僕たちは、ニーチェの声をたまにでもいいから聞き続ける必要があるのでしょう。ヒトラーが生まれ、ハイデガーが生まれたその翌年に、ニーチェは自殺をしたのでした・・・。