書も積もりし

小説、哲学、雑感など。誤字・脱字が多いのが哀しい

2016上半期読書ベスト15 (最後)

5位 鹿島田真希『ゼロの王国』 同率で笙野頼子『三冠小説』(番外で説明)

ゼロの王国

ゼロの王国

 装丁や本の厚みといった点でもとても素敵な書物。そして、中身は賛否両論らしい(読メ感想を見たところ)

ですが僕はとても好きです。どちらかというとかなり抽象的な(着服している服の詳細などはあまり書かれない)登場人物が、愛や、社会や、様々な事を語り合い、次のチャプターへと物語が進んでいくという、壮大な会話劇です。
 名前を失念しましたが、主人公が最初に出会う、結婚式場で働いていたアルバイトの女性(佐藤ユキだっけ)が、一番好きでした。服の色とか、表情の描写がほとんど無いのに、くっきり浮かび上がってくる、その不思議。固定したメンバーが、愛について大真面目に語り合い、後半は文字通り共産主義社会やユートピアなどについて思想にまで踏み込むこの文章は、圧倒的です。賛否両論が分かれるのは当たり前だと思います。
 これはとにかくフランス文学だと思いました。この本がフランス語に訳し返されて、同じ装丁で発売されたら、反響がどうなるのかとても知りたいところです(そんなことがあるのか分からないけど)

4位 ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』

うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)

うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)

 最高でした。実は、最初の印象はよくありませんでした。只の青年同士のキャッキャウフフした日常か・・・?と思ったら、やっぱりイキな仕掛けが随所に秘められている。突然出てくるヴィアン的な突拍子のつかない事態は、何を隠喩しているのかとつい考えたくなるくらい衝撃的で、素敵です。そして、睡蓮の花が心臓に宿る……これは妊娠の喩えなのではないかというコメントを見て、ははあ、そう考えるとしっくりくるなぁ、でも堕胎したのかなあ、やっぱり違うのかなあ、といろいろ考えてしまいます。哀しい結末。ヴィアンが、一見愉しそうな空間を描いていて、その中で反転とした異常事態や悲劇を織り交ぜるのは、言葉が見つからないのですがただただ美しいなあと思わされました。こんな小説は書けない。

3位 トマスピンチョン『V.』(上下)

V.〈上〉 (Thomas Pynchon Complete Collection)

V.〈上〉 (Thomas Pynchon Complete Collection)

 ずっと読みたいと思っていたピンチョンの長編をやっと読めました。処女作の『V.』から読んで良かったなぁと自分の選択をほめます() この作品についてこの余白であちこち語り尽くすことはできないのですが、ピンチョンは絶対メルヴィルが好きですよね。それは他の作品を読んでた時も感じました(要するに船のシーンが多い)。
 個人的に特に印象に残ったのは、上巻の、登場人物に整形手術を施すシーン。医学の細かい知識がないとぜったいに書けないし、とにかくすごい描写でした。普通、手術の体験って、医者側の視点から見た体験って医者以外にはできませんからね(笑) 追体験させてもらった感じです。読書は体験に満ちていると思います。
 それから、下巻の、「V.」にまつわる一人のロボット的な人物を子どもたちが無茶苦茶に破壊するシーン……。映像が映画のように、ありありと浮かんでくるようで、悲哀に満ち、怒りと無秩序で溢れ、強烈な場面でした。
 ピンチョンははちゃめちゃ。そのはちゃめちゃさは、後から後からどんどんクセになってくるタイプのものかもしれません。

2位 セリーヌ『なしくずしの死』(文庫上下)

なしくずしの死〈上〉 (河出文庫)

なしくずしの死〈上〉 (河出文庫)

 セリーヌについては僕が今一番敬愛している作家なので、安易には語れません。ただし、簡単なことを書いておきます。
セリーヌ自身は、実際はたとえば主人公のこんな悲惨な幼少時代のような生活は、味わってないそうです。つまり、自伝的に書いたにせよ、いくばか(というかものすごい)誇張がある。しかし例えばその誇張は、セリーヌの思考と想像=創造のなかで、どんどん膨れ上がり、奇形となって、このような形で現れたということである。セリーヌの幼少時代は気になりますが(知人からセリーヌの分厚い伝記をお勧めして頂きました)、やはり作品とそれとはまったく別のものだと思いました。
 文体ですよね、文体。 ……! …… 短文の凄まじいまでの畳みかけ。 『夜の果てへの旅』よりもさらに激しく、支離滅裂といえる(それは否定的な意味合いでなく)ところまでつきつめた、そんなすごい実験作とでも言えるでしょうか。

1位 マリオ・バルガス=リョサ『世界終末戦争』

世界終末戦争

世界終末戦争

 あまり言葉が出てきません。とりあえずこれは、史実にもいちおうあった、ブラジルにおける19世紀くらいの市民からの革命運動と、それを制圧しようとする政府軍との激しい闘い、それにまつわる人々、色んな登場人物、等など。 技法的な見地からも面白い箇所もたくさんありました。けどやっぱりスケールがすごい・・・! 友人から、「たぶんそれはマジックリアリズムの手法も使っているんだよ」と教えてもらいました。年代や有名な場所などの名前を極力隠しているから、いったいどこで何年に設定された世界の話の事なのか、よく分からないんですね。だけど、圧倒的な闘いがそこにある。すごかったです。好きな人物は、「人類の母」マリア・クラドラードと、カナブラーヴァ男爵かな。最高級の読書体験、本当御馳走様でした。これを2月までには読み終えてから、今6月下旬、すでにリョサの他の二作品を読みました(リョサ著作多い……)


番外編の笙野頼子さんなどについては、また別の機会に。