書も積もりし

小説、哲学、雑感など。誤字・脱字が多いのが哀しい

ラテンとスペインの血を僕はあの年に知っていた #3

ちなみに、「反文学」の連中は、Tfillのグループ会議(総会、などともったいぶった呼び名で呼ばれたりもしていた)にも参加していたりするので、このあたりはごっちゃだった。というより、Tフィルの中で特に仲が良く気質も似ている連中がいるなということに気付き、そのことを一番の年長のOさんに話したら、彼が言ったのだ、「じゃあミスティさんも一度ウチに来ればいい」。

 最初に言明しておくと、「反文学」で得た知的モチベーションは素晴らしいものだった。僕はここで初めて本格的な批評――本当はただの叩かれ台――を受けることになったし、最初に共読した哲学書はマルクスの『ヘーゲル批判哲学序説』だった。
 僕は、それまでで純文学的な傾向のある短編のなかでちょっと自信のあった「奇妙な食卓」という小説を叩き台に出してきた。これは評価はマチマチだった。ひるさん(女性、生活など一切不明)がここはもっとこうしたら、とかこういう表現に変えたらもっと良くなるのに! などと好意的なことを言ってくれたことはよく覚えている。どちらにせよ、これが僕の「文学的」洗礼だった。
 哲学書のほうは特に問題がなかった。哲学でちゃんと話し合えるのは、古井と、公房、そしてOさんと僕くらいしか居なかったけど、別に問題もなかった。この際古典哲学をきちっと読んでおくのも絶対にためになると思われた。

 「反文学」のメンバーは僕を迎えて活気が増したように思われた。連日のようにグループ会議が開かれた。ひどいときには、みんなが寝落ちしてしまうまで続く(それは続くと言えるのだろうか)こともあった。だけど、みんなが文学や芸術に向かって楽しい時間を共有していたことは間違いなかった。僕は今もそれをずっと感謝している。

 ここに、僕とそう年齢の変わらない二人、ヤケド(男性、介護職)とバイソン(男性、会社員)が時たまやってくることがあった。ヤケドは佐々木中保坂和志のファンであるらしかった。僕はこのヤケドがどうにも苦手だった。それが信じられないところまで亀裂を生むことになる。
当時は僕が覚えている限り最もメンバーの仲が良かった頃だ。Tフィルのグループ会議と、「反文学」のグループ会議以外のところで、僕もたびたび人とSkypeで通話をした。

 ヤケドとバイソンと三人で話をしたことがあった。話は大西巨人の『神聖喜劇』に及んだ。ちなみに大西巨人は昭和?のまさに巨人のような作家で、『神聖喜劇』は全4巻からなる膨大な小説である。 僕は何かの折に大西巨人の『神聖喜劇』を図書館で探していて、その時第一巻が他の人に借りられていた。だから僕は諦めて家に帰ったわけだけど、そのことをヤケドとバイソンに話したら、二人ともやたらニヤニヤしだして(というのもその顔はパソコン越しには見えなかったわけだが)、「え、ミステイさん、借りてこなかったんですか。第一巻がなかった? じゃあ二巻から読めばいいじゃないですか。ははは!」 この人は何を言ってるんだろう。おかしいのだろうか。僕は普通に反論した。「話が最初から分からなかったらきついですよ。というより僕は普通に第一巻から読みたい、それだけのことです」 すると普段は優しいバイソンまで、「ミステイさん、本の読み方はいつも一つではないんだ。それこそ無限にある。ミステイさんはミステイさんの読み方がある。つまり、『神聖喜劇』を第二巻から読み始めるのだ。それがいい。絶対それがミステイさんの読み方だ。ぜひともそうすべきだ」「そうだ、そうだ」 僕は恐怖を感じた。このとき、ヤケドとバイソンが実はとても仲が良いことに気が付いた。二人は何か結託しあっているように思われた。二人が結託して、この僕をからかっているのだ。僕は腹が立った。何も言うことができなかった。その日の晩は、早めに会話から離脱した。

 また、「反文学」のうち、よるさん(男、大学生)に対する敵意を抜きにこの回想録を完成させることはできない。
 よるは、こう言ってよければだが、ドイツ人そのものだった。ドイツ文学を骨の髄まで愛し、ドイツ文化を好み、まるでドイツの為に生まれてきたような人だった。これはあくまで僕から見た「よる」の姿である。「よる」をナイトと言い換えよう。ナイト=騎士は、そして危険な香りをいつも漂わせていた。

 最初に「反文学」の集まりにナイトが現れたのは、3月頃だった。そのときナイトは、呂律が回っていなくて、これは薬の副作用なんだという繰り言を述べていた。電話(というかPC)の向こうに猫の鳴き声が聞こえた。「男ってほんとみんな猫大好きだよね。猫飼ってる人ばっか」とひる(女、不詳)は言った。僕は何となくナイトは精神的に抱えているんだなと思った。あとで話を聞いてみたら、僕とひるとナイトは同学年、同級生だった。

僕もまた、ナイトと一悶着あった。