書も積もりし

小説、哲学、雑感など。誤字・脱字が多いのが哀しい

森の神話学――大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』

M/Tと森のフシギの物語 (岩波文庫)作者: 大江健三郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2014/09/18メディア: 文庫この商品を含むブログ (3件) を見る 目次 序章 M/T・生涯の地図の記号 第一章 「壊す人」 第二章 オシコメ、「復古運動」 第三章 「自由時代」…

詩二つ

パレード小人たちは歩く 歯の上 歯車の狭間 そこは 血塗れの 床と 受苦で満ち満ちている 痛みをさしだすのだ 薬に代えてやろう 熱を冷ますための 水滴 ひばりの声小人たちは踊る 葉の上 樹海の森 水滴が 恍惚を含み 歌は讃えるものとなりて るるるらら なん…

不透明さという苦しみ――鹿島田真希『六〇〇〇度の愛』

六〇〇〇度の愛 (新潮文庫)作者: 鹿島田真希出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/08/28メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 5回この商品を含むブログ (17件) を見る 鹿島田真希さんは僕の好きな作家なのだが、色々苦労が多いみたいで、「六〇〇〇度の愛」で…

晩年の晦渋さ――大江健三郎『晩年様式集』

晩年様式集 (講談社文庫)作者: 大江健三郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2017/01/13メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る 大江健三郎が2013年に発表した今のところの最新作『晩年様式集』がどんな小説であるか。冒頭部分の一節と、この小説の目次…

法学から見た世界#1 憲法1

今回は僕が大学のとき法律学をかじっていたにも関わらず当時買っていた教科書はいまや散乱し、勿体ないままだと思ったのでもう一度教科書を読みながら復習したり法学を通して論理的な思考を鍛え、他の学問知識からのアプローチも少しできたらいいなと思って…

繰り返し読んだり観たりすること

昔は、一度読んだ本はあまり読みかえさない、なぜならもっともっと色んな本を読まないといけないからだ! などと僕は意気込んでいました。 今になっても繰り返し読む本は限られるのですが、それでも自分にとってとても大切な作品は手元に置いて少しでも味わ…

マリオ・バルガス=リョサとお知らせ

ペルーのノーベル賞作家リョサの作品はほぼ全て日本にも翻訳されている。その中で僕が完読したのは『世界終末戦争』『密林の語り部』『悪い娘の悪戯』『水を得た魚』、途中読みが『フリアとシナリオライター』と『緑の家』です。 実に作品の多様性が満ちてい…

読書日記

・ヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』まだ100Pほどでジャン・ヴァルジャンの過去の話の途中だけどのっけからずっと面白い。ユゴー作品は以前に『ノートル・ダム・ド・パリ』を途中まで読んでいて、話しの進め方の面白さ、登場人物の魅力がすごいこと…

闇は僕の袖口をひっぱって

闇は僕の袖口をひっぱって自分への自信のなさというものはそら恐ろしい。僕はまたその景色を見ることになった。昨日。自信というものが消失していく。体という抜け殻は残るが、活力を送りこむための〈魂〉は荒廃している。 僕は昨日、静かに、狂おしいほど静…

花の美しさ――川端康成、THE NOVEMBERS

昨日書店で川端康成の『美しい日本の私』の冒頭を読んだら、花は眠らないことに思い至って、驚いた。というようなことが最初に書かれてあってものすごく惹かれた。 川端は、旅行の際などに部屋の窓から見える景色や活けてある花などを愛でるが、その花が人間…

迫害される狂人たち――排除型社会

まずはじめに、「一般人」というものは実在しない。それは計算されるもの、計算上の数学的な概念でしかない。ところが、法律やルールなどの《法》は、この一般人を全ての基準にして道路を作ったり労働法を整備する。だからこそ《法》なぞはやけっぱちな産物…

錦織全仏のこれまでの所感

僕はテニス観戦が大好きです。本格的にみはじめるようになったのは、錦織選手が2015年の全仏オープンで優勝候補優勝候補と期待される中、ベスト8で地元のツォンガ選手と激しい試合を見たことがキッカケでした。 この試合は激しいものでした。第二セットまで…

Darkside Of The Moon

……がない。理念がない。パトスがない。希望がない。「僕らは今度こそ、希望の虚しい氾濫の中で溺死しそうです」*1。溢れすぎているようで、内容がない。中身がない。つまり、「無い」ことが当たり前になりすぎている。平気な顔で存在する。たとえば理念がな…

反文明

文明のスピードが速すぎる。ドゥルーズの研究者である千葉雅也が『動きすぎてはいけない』で書きつけた、国家―社会―個人の領域における接続の過剰はさらに加速している。よく考えてみよう。二、三十年前のSF小説のアイデアはむしろほとんど現実化されてい…

ヘーゲル

この本を購入した。哲学書は高いしまず売れないから大型書店に行かないと買えないが、僕の甲斐性無さを1,2年発揮させた結果、ちゃんとした哲学書を購入したのは一年半年前のドゥルーズ『シネマ1』以来である。その間、デリダの「動物を追う、ゆえに私は…

近況報告 大江健三郎、リョサ、英語

ブログタイトルを変えたいと思ったのだが、やり方が分からない。変更不可能なのだろうか。誰か分かる人いたら教えて欲しいです苦笑 文章を書くのも少し久しぶりである。ブログは1カ月ぶり。 3月末の各文芸誌の新人賞に作品を出そうとしていたのだが、土壇…

上野千鶴子に誰か続け

今日、こういう本を図書館から入手した。 正式タイトルは『キャリバンと魔女――資本主義に抗する女性の身体』。タイトルから見ても分かる通り、本書はジェンダー論と資本主義論(政治経済学)を積極的に結び付けようとする野心作。主に17,18世紀にヨーロ…

告解(詩)

「告解」わたしは罪深い 大切な人を ときには利用してしまえるほどの 矮小な 男だ 卑近な奴だ 卑怯だ 矛盾もたくさんある 弱い 正義ではない あなたはとてもやさしい 美しい心 美しい目 あなたのように 願わくばすこしでも ちかづきたいと思うのです

エメラルド(詩)

エメラルドmisty海を見た、と君は言った その海はエメラルド色の 静かで穏やかな波だったかい、 それとも、激しく、荒々しいうねりをあげる海だったかい 金色に輝いて、 どこまでも続く波の表面を潜ると、 全く知ることの無い海が広がって、 もっともっと、…

上野俊哉『四つのエコロジー』 ガタリの思考、機械状、氾心論

上野俊哉さんの『四つのエコロジー フェリックス・ガタリの思考』(2016、河出書房新社)があまりに素晴らしいので、メモ書きをします。 哲学書というのは、もちろん素晴らしい概念や、見事な論証に息を巻くから面白いんだけど、どんな結論やテーマや論証過…

たいくつ(部分)

***mistyです。ちょっと事前説明をさせてください。さきほど、PCメールの下書きを遡っていたら、まだ僕が大学生だった頃、2011年1月の日付で保存されていた「たいくつ」という小説の、一部分が見つかりました。 「たいくつ」は長編で書こうと思っ…

橋本奈々未へ①

橋本奈々未へ捧げる ……彼女はこれからも夜の静寂に独り起つ紺碧色の眼をした小鳥の如く、無限の樹海の中をさえ逞しく、強く、鮮やかに彷徨していくだろう。そしてその彷徨は未だ誰も見たことの無い奇跡的な〈誕生〉へと向かって行く――。何があったろう。何が…

Hallelujah(最初だけ)

Hallelujah 治療室から戻ってくると、エアコンから送られる暖かな空調にSは感動するものを覚えた。個人経営の小さなクリニックの歯医者はSの知っている限りでは東京の最先端の歯学を完璧に習得し、洗練された治療と「居心地の良い実に快適な」空間のを提供…

『パララックス・ヴュー』メモ書き(1)

スロヴェニアの現代哲学者ジジェクは、難解な文体、ドイツ観念論からフランス政治哲学、そしてもちろんラカン的精神分析学、そして何より大衆映画作品の分析などを盛り込んだ、「圧倒的な書物」を世にばんばんと送り出す魅力的な哲学者である、と僕は思って…

『アンナ・カレーニナ』ノート(4) 

「アンナ・カレーニナ」に関するメモはこれでお終いです。遂に読んでしまいました。 深い喜びと、もうこの物語の続きを味わえないということに、妙な寂しさを覚えます。 まず、アンナとウロンスキイの悲哀めいた一シーン。 「アンナ! ぼくの愛の問題がここ…

「アンナ・カレーニナ」ノート (3)

今回はpp250~500くらいまでなんですが、すぐに集中力が切れる僕としては、『アンナ・カレーニナ』はかなりはまり込むことができます。まだ読了していないけど。ところどころ唸った所を紹介しますね。 『要は、自分の目的に向かって根気強く歩み続けることだ…

夏目漱石ロボットが現代の大衆小説を書くようになるとき

人工知能(AI)の進化について、文系癖という悪癖が出て情報収集を疎かにしたり、「うーんでもロボットがどんどん進出していくと人間の手仕事も減るわけだしいいじゃん」というお花畑な思考をしがちだったのですが、 AI関連でも、人工知能が文章を書く、…

2016年下半期読書ベスト20 ②

15位 ジェイムズ・ジョイス/ユリシーズⅠ 1章―10章まで。ジョイスについて何も知らずに読みはじめるとやはり困惑してしまう。しかし、何という自由さ、創造性。個人的には第3章の「意識の流れ」に則った自由散文がとても好き。人物関係がけっこう複雑…

『アンナ・カレーニナ』ノート(2)

今回は集英社から出ている世界文学全集シリーズ版の、100pp~250ppくらいまでが対象です。 ノート感覚でつけているので大した考察もないですが、一緒にトルストイの文章を味わいましょう。 それから、前回では触れませんでしたが、最小限の登場人物の整理を…

『アンナ・カレーニナ』ノート(1)

ロシアの大文豪作家、トルストイの『アンナ・カレーニナ』を読みはじめたのですが、めちゃくちゃ面白いです。トルストイは前に短篇を読んだことがあって、けっこう固い話だったので、そういうイメージで読みはじめてみたら、『アンナ・カレーニナ』は冒頭か…