書も積もりし

小説、哲学、雑感など。誤字・脱字が多いのが哀しい

Darkside Of The Moon

 ……がない。理念がない。パトスがない。希望がない。「僕らは今度こそ、希望の虚しい氾濫の中で溺死しそうです」*1。溢れすぎているようで、内容がない。中身がない。つまり、「無い」ことが当たり前になりすぎている。平気な顔で存在する。たとえば理念がないことは恥ずべきことだ。なのに平気で人々は表をねり歩く。「あなたは理念をお持ちですか?」「知ったことか、ああ?」こんなことはもう八十年も前から、いや一生続いているのだ。第二次世界大戦はいい例だった。椎名麟三の「深夜の酒宴」を見よ。あれと現代の何が違うのか。酩酊でもしないとやってられないのだ。世界はあるべき内容を欠いた。人間は人間たる規定を失った。動物的と呼ぶことすら動物に失礼だ。
 人間の時代などとっくに終わった。近代の夢は夢で終わったのだ。今は何の時代だろうか。「……が無い」の時代か。

*1:大江健三郎「死者の奢り」